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やすのりさんの遺書

いろんな事がわかり始めた秋と何か失った冬。

「すごい、うまいね。何年生?」
私は興奮気味に丸坊主の少年に声をかけた。
「小6です・・・。」
「野球部?」
「は、は、はい。副キャプテンやってます・・・。」
その少年は、はにかんだ感じで話した。

私と息子がキャッチボールをやっていた隣で、
その少年は素振りをはじめた。
小6とは思えないほどのするどい振り。
バットが空気をビュッと切り裂く。
「いやぁ、すごいね。中学に入っても野球部入るの?」
「いや、中学の野球部には入りません。部活はレベルが低いですから。
僕、クラブチームに入りたいんですけど、レベルが高いんでちょっと自信がないんです。」
「君のその実力ならクラブチームでも充分やっていけるよ」
「僕なんか、まだぜんぜんで下手くそです。上には上がいますから。」
謙遜している感じではなく、本当にそう思っているようにその少年は話す。
私は息子を指さし、
「よかったら、こいつとたまにでいいから、キャッチボールやってあげてくれないかな」
と、今日初めて会ったその少年に図々しい提案を持ちかけた。
「いいですよ。喜んで」
とその丸坊主の頭をかきながら、はにかんだ感じで話した。

「母さん、ぼく今日ね、すごい野球のうまい子と一緒に野球やったよ」
「へ~そう、よかったね。」
「今度またキャッチボールする約束したよ」
「あの子、ほんとに野球が上手だから、あんな子とキャッチボールしてたら上達するぞ。よかったな」
私がチキンカツを頬張りながら息子に言う。
その日、晩ごはんの話しのネタは、丸坊主の少年で持ち切りであった。
「でも父さん、あの子あんなに野球上手なのに自分の事下手くそって言ってたよね」
「そうだな」
「ほんとに上手な子は、自分のこと上手って言わないんだよね」
「おまえは自分の事どう思ってるんだ?」
「ぼく?ぼくはまだまだダメだ。下手くそだよ。もっと練習しないとね」

息子の返事は本当に意外であった。
ちょっと前までは、自分はプロ野球選手になるために生まれてきたぐらいに思ってて、
誰よりも野球が上手だと思っていたはず。

季節は少しずれるているが、
メジャーの主題歌を思い出し、
口ずさんでいる父親がいた。
嬉しいような、寂しいような複雑な気持ちになった。

2010年6月2日やすのり

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