やすのりさんの遺書
禁じられた遊び
「息子がギター弾きたいって言い出してね。小学4年なんだけど。
これくらいのギターでどうかな」
新春初売りの客引き商品であろう、
限定3台の9,800円のエレキギターセットを
指さして私は楽器屋の店員に尋ねた。
20代であろうその男の店員は、いかにも面倒のようにこう答える。
「あぁ、それですか。そのギターはギターではないですよ。音も悪いし」
ギターでない???
私の心の声が聞こえたかのように重ねて話す。
「そうギターではないっす。ウチのギターのお客さんに小学生の子がいますけど、4万、5万当たり前っすよ。こっちのギターなんていかがです?
音も良くて扱い易いですよ」
その店員の指さすその先には、4万9,800円のギターがある。
たしかに4万、5万を投資する親は存在するであろう。しかし当たり前のレベルではないはず。
「息子は気まぐれ屋でね。野球をやりたいって言っても3日ももたない。
習字を習わしてもやはり3日だった。何やっても3日坊主のタイプなんだ。
きっと今回のギターもそのパターンだと思う。そんなヤツに4万も5万も
投資するつもりはないんでね」
その店員の反応を試すかのように、とっさに出た架空の話をすると
そそくさと勝手にしたらという感じで、他の客の方へ去って行った。
商業主義に走りすぎている、その店員に呆れと怒りを感じながら、
ウチの息子が何十年後かに有名なギターリストになって
初めてのギターの機会を失ったことを
この店員に後悔させてやる。
とありもしないであろう妄想をかきたてられた。
さらに妄想は広がる。
グラミー賞4部門を受賞した息子のスピーチ。
「私がギターをはじめたのは9,000円のギターでした。
父はこれが最高と言いながら9,000円のギターを私に渡してくれました。
こんな安いギターしか買ってあげれれない貧乏な父さんでごめんなと
父は私に言いました。
楽器屋さんのおじさんは9,000円のギターを買う父をバカにしました。
それが悔しくて、悔しくて・・・。
そのおじさんを見返すためにも毎日毎日ギターを練習しました。
父さん、ありがとう。9,000円のギターで僕はここまできました。
父さんありがとう・・・。」
こんな感動的なシーンに出会えるなら
今すぐ野球をやめろ。
9,000円のギターでお前はギターリストをめざせ。
世界的に有名なギターリストになって、
この店員を見返してやれと真剣に思った。
怒りは人間を狂わすことを新春に実感した。
レッドさんから借りたギターで
アイオブザタイガーのコピーをめざす息子。
そもそもFコードが押さえられずギターに挫折し、
禁じられた遊びしか弾けない父親のDNAを受け継いだ子が
ギターの素質があるとは思えない。
とりあえず、禁じられた遊びで終わらぬよう
心から祈る2013年、新春である。
2013年1月4日やすのり
※やすのりさんは現在存命中です。やすのりさんの一般公開遺書アーカイブはこちらです。
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