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出生の秘密

「おまえはジャイアンツファンであった父親から生まれ育ったんだ」
この言葉を何度息子に告げようとしたことか。
そこまで出かけている言葉が口元から出てこない。
父親の思惑以上に情熱を注ぐ息子の姿を見て
言えなかった。言えるはずがなかった・・・・。

私は息子を中日ファンにさせるべくいろいろ策を練った。
しかしそれほど労力を使うこともなく、少し道筋を立てただけで、
息子は中日ドラゴンズというプロ野球の球団にのめり込んだ。
息子にとって中日という球団は、心から愛し敬愛する対象として
頭の中を支配していった。

「父さん、巨人ってほんとに汚いよね」
去年の暮れ、息子は吐き捨てるように言った
「なんでだ？」
「あんなに強いのにまだ強い選手を入れようとするんだもん。ほんと汚いよ」
「そ、そ、そうだな・・・。」
「ボクこの世で巨人が一番嫌いだ。心の底から嫌いだ」
「もし、もしかな、父さんが巨人ファンになったらどうする？」
これが精一杯の言葉だった。
卑怯な聞き方だとは分かっていた。
なったらという未来形の言葉であり、
だったらという過去形の言葉ではない。
「嫌だ」
息子は一言で片付けた。
でもその後息子が続けた。
「父さん、なんでプロ野球選手にならなかったの？今からでもなってよ」
小学校１年の息子にとって、草野球程度の父親の野球レベル
がプロ級に映るらしい。
「もし父さんが巨人に入ったら、巨人ファンになるよ」
この時が真実を語る最大のチャンスだったかもしれない。
この最大の機会を逸してしまったことをとても後悔をしている。

２０１０年、今年中には真実を話そうと思う。
父と子の絆が崩れ堕ちるものになるかもしれない。
そうなろうともここを乗越えなければ先に進めない。
今後の親子の運命を決定する２０１０年になりそうである。

追伸　2009年5月23日付けの遺書とあわせてお読み頂ければ幸いです。
http://bochi.in/isho.php?d=333

2010年1月16日やすのり

※やすのりさんは現在存命中です。やすのりさんの一般公開遺書アーカイブはこちらです。