レッド石黒さんの遺書
ミーチャンのレース
阪神競馬場へ向かう阪急の車内で向かいに座っていた親子の会話。
関西弁の再現が適当な点はお許しください。
「今日のメインレースな、お前が産まれるちょっと前、ライデンリーダーって馬が出ててん。その馬も地方の馬でな。お前も知ってるやろ、安藤勝己」
「うん、知ってる」
「その頃まだ安藤は地方の騎手だったんやけど、ライデンリーダー乗ってな、むっちゃすごい足で勝ったんやで」
「へー、それでクラシック行ったの?」
「おう、父さん桜花賞観に行ってな、ライデンリーダーから一点買いしてたんや。けど直線で前3頭が壁になってな、よう足を使いきれへんかった。悔しかったなあ」
「そのレース何が勝ったの?」
「うーん・・・父さんライデンリーダーばっか見てたからなあ、忘れてまったわ」
「それでその後は?」
「その後はオークス行ってな、そん時は逃げよったんやけど、4コーナー回ってから失速してあかんかったな」
「そのレースは何が勝ったの?」
「うーん・・・確かお前も知ってるくらい有名な馬だったと思うけどな、忘れてまったわ」
「・・・・・」
「とにかくな、今日ラブミーチャンに乗る濱口ってのはな、あん時ライデンリーダーに乗ってた安藤と同じ誕生日やねん」
お父さん、言いたかったのはそこですか。
確かに濱ちゃんと安勝が同じ誕生日だとは知らなかったけど。
桜花賞はワンダーパフューム、オークスはダンスパートナーが勝ったんだよ、って少年に教えてあげられるくらいの距離にはあったのですが、あえてそれは言いませんでした。
人間はデータベースじゃないんだから、勝ち馬でレースを憶える必要はない。
目の前に立ってるこのおじさんにとっても、お父さん同様、あの時の桜花賞やオークスは、ただただライデンリーダーのレースってことでしかなかったんだし。
*************
3月14日。
長いこと競馬やってるけど、この日の阪神は、ゴール前の一部に限り、競馬場なんだか甲子園なんだかわかんない雰囲気でした。
地元から駆けつけたミーチャンの応援団が、お揃いのタオル片手に一生懸命応援してる。
正規の応援団員ではなかったけど、タオルもらって一緒になって応援させてもらいました。
第44回報知杯フィリーズレビュー(GⅡ)。
始まっちゃえば、あっという間の1400m。
ラブミーチャン、結果はまるで15年前のオークスの、デジャビュのような12着。
ゴール前の最前列に潜り込んでレース見終わった後、応援団のところへ戻ってみたら、みんな泣いてた。
試合終了。
アンパイヤのかけ声はなかったけど、頭の中でサイレンが鳴ってた。
いつもと違って悔しさを共感できる人たちが、そこには大勢いた。
「レース見終わって今どんな心境ですか?」
いつの間にか報道陣のカメラが取り囲む。
「うーん、勝ったサウンドバリアーと渡辺騎手には申し訳ないんだけど、たぶんこのレースはラブミーチャンが中央の馬に戦いを挑んだレースとして、この先ずっとみんなの記憶に残り続けるんだと思います」
と、取材を丁重にお断りさせていただいた後、空に向かって呟いてみた。
そうですよね、お父さん。
2010年3月16日レッド石黒
※レッド石黒さんは現在存命中です。レッド石黒さんの一般公開遺書アーカイブはこちらです。
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