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「鍼灸にできること」序　東洋党宣言

＊「鍼灸にできること　その2」を記すまえに
序を思いついたので。

「東洋党宣言」

18歳の春、浪人して上京して予備校に通った僕は、
神保町の大きな本屋で１冊の詩集を手に入れた。
1955年、ビートニクのアレン・ギンズバーグが書いた
『吠える』だ。
サンフランシスコの「シティライツ」という
小さな本屋から出版されたその詩集は、
いつのまにか全米を席巻し、
当時のカウンターカルチャーの必須アイテムのひとつになる。
ヒップスターたちは、やがてヒッピーとなり
あのビートルズもインドへ行った。

なぜその詩集を手にしたかったのか、
明確な理由はわからなかった。
ただ、その頃の僕のいた（と思い込んでいた）世界
とは違う匂いを感じたのかもしれない。

詩集には訳のわからないデタラメな言葉が
飛んだり跳ねたりしていた。
ジャージーで、どこか哀しくて、そして
大部分が狂っていた。
「まとも」ではないと思った。
しかし、そのなかに危うい格好良さを感じてしまったのだ。

僕はそれから40年後のサンフランシスコを訪れ、
レインボーの色が旗めくゲイの街を歩いてみた。
かつての聖地だった、あの「シティライツ」は観光地となり
ユーミンが真似た（？であろう）
銀色のロゴ入りの黒いTシャツや帽子が売られ、
当時の匂いや面影の欠片もそこには落ちていなかった。
あれは、あのムーブメントは、
流行に過ぎなかったのだろうか？

話を元に戻そう。僕が10代の後半の頃の話。
みんなが校舎の窓ガラスを割りまくっていたその頃だ。
僕はこの世界が
“何かうさん臭いモノ”じゃないかと思い始めていた。
真実はもっと“別のトコロ”にあるんじゃないか、と。
その答えは何かわからなかったけど、
なぜだかそう思っていた。
“beat the system”だと。
このシステムは間違っているんじゃないか、と。

今、想う。

僕が10代の頃、
壊したくってしょうがなかったこの“システム”ってやつの正体は、
僕が“うさん臭い”と感じていた世界は、
実は西欧文明社会、言葉を換えるなら
高度資本主義社会に対してだったのだ。
10代の僕は、それがイコール世界のすべてだと
思い込んでいたのだ。まったくのバカだ。
産業革命以降、たかだか200年足らずの薄っぺらな価値観を
鵜呑みにしていたのだ。

今、思う。

それは世界のすべてじゃない。
僕は“東洋”に出会った。
（鍼灸と言ってしまうと、狭くなる。
狭義の“東洋”でなく広義の“東洋”のこと）
それは、かつてヒッピーたちが老子や荘子を読み、
鈴木大拙の禅を真似たようなことかもしれない。
しかし、僕は
“東洋”にはすばらしい知恵が在ることを知っている。

なるほど科学は素晴らしい。
それは便利を私たちに運んでくれる。
しかし、科学だって万能ではない。
ガリレオが地動説を唱える前のキリスト教社会は、
みんな天が動いているって本気で信じていたじゃないか。
（今では誰も天動説なんて信じやしないけど、
天動説のおかけで西洋占星術だってできたわけだ）
世界をどう捉えるかは、自由だ。
でも、絶対的なモノもそこにはある。
私たちの力の遠くおよばない、大きなモノ。

それは物の理。（モノのコトワリ）
簡単に言うと危険だけど、敢えて言うのならば
水は高い方から低い方へ流れるとか、
そんなこと。
無から有がウまれ、また無にかえっていく。その繰り返し。
そんなこと。

『老子』が言っている。
「道は一を生じ、
一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず」
「万物は陰を負うて、而うして陽を抱く。
沖気は以て和を為す」

ブッダは入滅のまえにこう言ったという。
最期の言葉。
「ワ゛ヤダムマーサンカーラー」
意味はわからない。誰も解釈できていない。
こう考えてはどうだろう。
あるがままに生きる、
天然自然のその姿のように。
だって、そもそも私たちも天然自然だから。
（そんなこと、できはしないんだけどね。笑）

すべては否定からはじまる。
疑ってみてはどうだろうか？
現在の社会を、文明を、科学を。
そして、“東洋”に少し目を向けてはどうだろうか。
鍼灸は、果たしてその入り口にすぎないかもしれない。
自分のカラダに目を向けるということは、
世界と向き合うための一歩なのだ、と思う。

ここに東洋のすすめ、東洋党を宣言して
「鍼灸にできること」の序とさせていただく。

2009年4月29日悪狗陀　狸人

※悪狗陀　狸人さんは現在存命中です。悪狗陀　狸人さんの一般公開遺書アーカイブはこちらです。