悪狗陀 狸人さんの遺書
Q千円
ノイローゼになってしまった大学時代の友だちが、
単身赴任先の東京から自宅のある神戸に引っ越すというので、
上京したときにランチを一緒にすることにした。
御徒町のあるトンカツ屋で「今日はオレが奢るから」と彼。
「いいよ、割り勘で」と僕。
「いや、これには訳があるんじゃ」と日田弁の彼。
僕の前に座った彼の首には、なぜだか
エンジと黒の縞模様の携帯ストラップが掛かっていた。
「大学に行ってみたよ、20数年ぶりに」
「そう、ずいぶん変わったでしょ」
「変わったね。で、文キャンの食堂だったとこが
生協の本屋になってってね、
そこに村上春樹の新刊があったんじゃ」
「『1Q84』。オレまだ買ってない。つうか買えない」
「で、手に取っていたら、店員が話しかけるんじゃ。
買っといた方がいいですよ、またすぐ売り切れになりますから」
「うんうん」
「で、レジに行ったら生協の会員証はありますか、だって。
オレは20数年前に卒業してるし、
その時に生協の出資金を返してもらうの忘れちゃった、
って言ったら、そしたらだよ、
調べましょうかって言ってくれてさ」
「はあ?」
「いや、調べますって本キャンまで行って、
そしたら、あったんだよ、生協の申込書、オレが書いたやつ」
といって、彼はB6くらいの大きさの厚紙を
テーブルの上に置いた。
「ほれ、これ」
彼の筆跡が書かれたそのカードは、いささか黄ばんでいる。
「ここ、よく見て、入学の年」
ん、と手に取って僕は驚いた。
「1984年!」
笑った。1984年だ、もとい、1Q84年だ!!
「返してくれたんよ。出資金の9000円。だから奢るわ」
いやいや、それは9000円ではなく、Q千円に違いない。
「ここではないどこか」(笑)から来た、Q千円だ!!
加えて言うのなら、
「完璧なQ千円などといったものは存在しない。
完璧な絶望が存在しないようにね。(爆)」
『1Q84』を僕はいまだ1ページも読んでないのに、
こんなことが起こるなんて!
なんて小説だ、やるぜ村上春樹先輩、
いや本当の「鼠」先輩!!(再爆)
鬱病の薬を飲み過ぎて顔や手の指がパンパンに腫れた彼は、
それでも嬉しそうに笑ってこう言った。
「『1Q84』を買わなかったら、
こんなことは起きなかったんじゃ。
おもしろいでしょ」
「そうかもね。いや、たまたま、だよ」
と僕はニヤッと笑った。
2009年6月26日悪狗陀 狸人
※悪狗陀 狸人さんは現在存命中です。悪狗陀 狸人さんの一般公開遺書アーカイブはこちらです。
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